肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
ClassⅠ
1.適応基準を満たす症例に対する
在宅酸素療法 (Level B)
ClassⅡ a
1.気道収縮あるいは気道分泌の亢進している
症例に対する気管支拡張薬,去痰薬 (Level C)
2.肺結核の再燃を伴う場合の抗結核薬 (Level C
COPD 肺結核後遺症
平均肺動脈圧(mmHg)
平均肺動脈圧(mmHg)
文献298より引用
5 肺結核後遺症
要旨
肺結核後遺症は,拘束性/閉塞性換気障害がその主因となり,睡眠呼吸障害・肺循環障害・労作時呼吸困難を伴う症候群である.病態・治療に関しては,拘束型,閉塞型の混合型を示すその他の肺疾患に準じる.
①疫学,原因
日本における肺結核後遺症の正確な疫学は不明であるが,在宅酸素療法全体の患者の中で,その割合は減少している.
肺結核後遺症における肺高血圧症の合併は広汎な無気肺病変を有する症例,あるいは片肺切除術,胸郭形成術後で低酸素血症を伴う症例で頻度が高いと思われる.肺高血圧症の発症機序は肺構造の破壊に伴う肺血管床の減少・リモデリング,低酸素血症に伴う肺血管攣縮によると推定される.
②診断
肺結核後遺症の診断は病歴および胸部画像所見による.肺高血圧症の疑診は心臓エコー検査にて,確定診断は右心カテーテル検査にて行う.平均肺動脈圧の値の推定をPaO2 値から行うことはCOPD症例と比較すると困難である.低酸素血症を来たしていなくても,肺動脈圧の上昇を認めることが多い(図13)298).
③予後,重症度判定
肺結核後遺症患者の予後規定因子は必ずしも明らかではない.多くの患者は呼吸不全ないしは右心不全の悪化による急性増悪により予後不良となっている.低酸素血症・高炭酸ガス血症の程度の悪化とともに,肺高血圧症の程度も悪化すると予想される.右心カテーテルにて重症度の判定は可能であるが,動脈血液ガス分圧の値から,肺高血圧症の重症度の推定は可能である.
④治療(表34)
在宅酸素療法および人工呼吸療法が治療の選択肢として挙げられる.気管支拡張薬,去痰薬などの内科的治療は気道病態の改善を介して肺循環動態を改善し得る可能性を持つ.
⑤治療効果
在宅酸素療法は本疾患患者の平均肺動脈圧を低下させる299).在宅人工呼吸療法も同様の効果があることが期待される.
⑥今後の展望,課題
肺結核後遺症患者数は,今後さらに減少する.肺結核後遺症に伴う肺高血圧症に関して,新しいエビデンスが出ることは期待できず,肺血管拡張療法が適応になることはないと予想される.新規の重症肺結核症の発症を可能な限り抑制することが最も重要である.
図13 COPDおよび肺結核後遺症患者における動脈血酸素分圧と平均肺動脈圧の関係
表34 肺結核後遺症に伴う肺高血圧症の治療
COPD 肺結核後遺症 平均肺動脈圧(mmHg)
PaO2(Torr)y=-0.29X+391 n=86 r=0.69
y=-0.32X+44.2 n=71 r=0.47
0102030405060708090100文献298より引用