肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
 
【定義】
原因不明の肺胞低換気による慢性の高炭酸ガス血症,低酸素
血症を来たす症候群である.睡眠呼吸障害を伴い,睡眠中に
は低換気状態が増強し,低酸素血症,高炭酸ガス血症が増悪
するのを特徴とする.慢性閉塞性肺疾患などの肺疾患や神経
筋疾患,陳旧性肺結核症による慢性の低換気は二次性の肺胞
低換気症候群として除外する.
【診断基準】
1.慢性の高炭酸ガス血症(PaCO2≧45Torr)
2.睡眠時における低酸素血症の増悪を認める(基準値より
4%以上の経皮的酸素飽和度(SpO2)の低下,または
SpO2<90%の時間が5分以上,またはSpO2<85%に達
する場合を目安として総合的に判断)
3.自発的過換気により高炭酸ガス血症の改善がみられる
(PaCO2で5Torr 以上の低下)
4.ほぼ正常の呼吸機能(肺活量(VC)>60%対予測値,お
よび1秒率(FEV1/FVC)>60%を目安)であり,肺の器質
的疾患が血液ガス異常の主体であることが除外されること.
5.薬剤などによる呼吸中枢抑制や呼吸筋麻痺が否定され,
かつ神経筋疾患などの病態が否定されること.
6.画像診断および神経学的所見より呼吸中枢の以上に関連
する中枢神経系の器質的病変が否定されること.
7.Body mass index(BMI)<30kg/m2であること.
8.典型的睡眠時無呼吸症候群を除く.
4 原発性肺胞低換気症候群
要旨
 原発性肺胞低換気症候群(primary alveolar hypoventilation syndrome: PAHS)は,ほぼ正常の肺機能でありながら,肺胞低換気のために慢性の高炭酸ガス血症を来たす症候群である.肺胞低換気による低酸素性肺血管攣縮により肺高血圧を呈する.

①疫学,原因

 PAHSは極めて稀な疾患で,厚生労働省呼吸不全研究班の調査による全国推定患者数は40人(95%信頼区間30~ 50人)である.PAHSの原因としては,化学呼吸調節系の障害が考えられているが正確な機序は不明である.

②診断

 厚生労働省呼吸不全調査研究班は,疫学調査のための原発性肺胞低換気症候群および肥満低換気症候群の診断基準を示している(表33).

③予後,重症度判定

 診断がされず適切な治療が施行されない場合の予後は不良と推定される.在宅人工呼吸療法の普及により,予後は改善していると推定される.重症度判定基準は示されていないが,高炭酸ガス血症の程度,睡眠時低酸素血症の程度は,重症度を反映していると考えられる.

④治療

 在宅酸素療法および人工呼吸療法が治療の選択肢として挙げられる.横隔膜ペーシングが一時的に有効である症例の存在も報告されているが,長期的に継続可能なのかどうかは不明である.

⑤治療効果

 人工呼吸療法により肺胞低換気の程度が改善されれば治療効果ありと判定されるが,それが予後に影響するかどうかは不明である.

⑥今後の展望,課題

 PAHS は極めて稀な病気であり,治療法は低酸素血症・高炭酸ガス血症に対する在宅酸素療法・人工呼吸療法が中心となる.肺高血圧症は,低酸素血症・高炭酸ガス血症が改善されれば,それに伴い改善が期待できる.肺高血圧症の程度が予後に影響するかどうかは不明である.
表33 原発性肺胞低換気症候群(PAHS)
出典 http://kokyufuzen.umin.jp/
Ⅱ 各論 > 3 肺疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症 > 4 原発性肺胞低換気症候群
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