肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版) Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
3 拘束型閉塞型の混合型を示すその他の呼吸器疾患
要旨 肺気腫と肺線維症が合併する症例があることは我が国でも古くから知られていたが,2005年にCottinらはCTにて上肺野優位の小葉中心性肺気腫と下肺野優位の線維化を認める疾患群を気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema syndrome (CPFE))として提唱した296).特徴的な臨床所見として,1.スパイロ所見が比較的軽症であること,2.肺拡散能力の低下が著明であること,3.低酸素血症の程度が強いこと,4.肺高血圧を高頻度に合併すること297),などがある.CPFE症例の一部に重症の肺高血圧が認められることが報告されており,ダナポイント分類/ニース分類(草案)でも第3群(肺疾患に合併する肺高血圧)の中で独立した疾患として分類されている.CPFEで肺高血圧を呈する症例の頻度や成因は明らかではないが,予後は不良とされる.PAHと同様に,肺血管拡張療法の適応である可能性があり,今後の検討課題である.①疫学,原因 CPFEの診断基準が統一されていないため,現時点では報告により背景疾患や重症度も様々であり,原因,疫学に関する十分な情報はない.CPFEでは推定収縮期肺動脈圧が45mmHgを超える肺高血圧を呈する頻度は,診断時で47%,経過観察中を含めると55%と高率であると報告されている296) . ②診断 肺高血圧の診断は他の肺疾患に合併する肺高血圧と同様である.心エコー法などでその存在を推定し,右心カテーテル法で確定診断を行う. ③予後,重症度判定 CPFEで肺高血圧を合併した症例の予後は不良で,PVRが485 dynes・sec・cm-5 以上の肺高血圧例の生存期間中央値は6.6か月と報告されている297) . ④治療 現時点でCPFEに対し明確な効果をもたらす治療法は確立していない.COPD,間質性肺炎の治療に準じて酸素療法,換気補助,増悪因子の除去などを行う.肺血管拡張薬の有効性を示すエビデンスはない.COPDや間質性肺疾患に伴う肺高血圧症とは病態が異なると考えられ,血管拡張療法の治療効果は,CPFE合併肺高血圧症と他の肺疾患合併の肺高血圧症では別個に検証される必要がある. ⑤今後の展望,課題 CPFEやそれ以外の肺疾患であっても,肺高血圧の重症度が背景となる肺疾患の重症度と比較して明らかに重篤であると判断される症例が存在し, これはout of proportion PHと称される3) .このような症例は,他の通常の肺疾患合併肺高血圧症と病態が異なる可能性があり,血管拡張療法の治療効果も別個に検証される必要がある.今後はこのようなout of proportion PHを呈する3群肺高血圧においては,薬物治療介入の意義が無作為前向き試験によって検証されるべきである.