肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
 
ClassⅡa
 1.高炭酸ガス血症を伴っていない低酸素
   血症に対する酸素療法 (Level C)
 2.高炭酸ガス血症を伴った場合の換気
   補助療法 (Level C)
 3.感染が明らかな憎悪因子となって
   いる場合の抗菌療法 (Level C)
 4.気道収縮が明らかな憎悪因子と
   なっている場合の気管支拡張療法 (Level C)
 5.ステロイド薬の全身投与 (Level C)
2 間質性肺疾患
要旨
 肺高血圧を合併する間質性肺疾患には特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias: IIPs),結合組織病に合併する間質性肺炎,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症などがある.間質性肺疾患に伴う肺高血圧の治療の中心は酸素療法である.ただし結合組織病合併間質性肺炎,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症いずれでも各疾患に特異的な検査,治療薬を考慮して診療にあたる.結合組織病に合併する間質性肺炎については,本ガイドラインの他項「結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症」も参照されたい.

①疫学,原因

 間質性肺疾患に伴う肺高血圧の包括的な疫学データは少ない.その中で間質性肺疾患症例の32%に肺高血圧が合併していたとする報告や279), 特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)では40.7%に肺高血圧が合併するとの報告がある280).IPF以外の間質性肺疾患では,サルコイドーシスで5.7%に肺高血圧を合併していたとする我が国からの報告や281),より重症例では74%に肺高血圧が合併したとの報告がある282).ランゲルハンス細胞組織球症では,COPD,IPFよりは肺高血圧の合併が多くかつ重症とされるが,一方で治療反応性が比較的良好であるとする報告もある283),284)

 間質性肺疾患における肺高血圧の原因は,低酸素血症に伴う肺血管攣縮,肺実質障害に伴う細動脈・毛細血管の圧排,閉塞(肺血管床の減少),血管壁のリモデリングなどと考えられる285),286).サルコイドーシス,肺ランゲルハンス細胞組織球症では,疾患特有の血管病変が肺動脈圧上昇に関与している可能性がある.

②診断

 他の病型と同様に平均肺動脈圧が25mmHg以上で肺高血圧ありと診断される.自覚症状から肺高血圧の存在を疑うことは,併存する肺病変のため一般に困難である.肺高血圧による自他覚症状は他の肺高血圧と大きな差はなく,息切れ,易疲労感,浮腫,心音のIIp成分の亢進,などである.夜間あるいは労作時の低酸素血症が肺高血圧の発症や進行に関与する場合があり,この場合経皮的動脈血酸素飽和度モニタリングが有用である.

③予後,重症度判定

 肺高血圧の合併は間質性肺炎の予後不良因子である92),279). 疾患別では間質性肺炎全体のほか,IPF287)-289),サルコイドーシス282),289),290)で予後不良因子であることが示されている.

④治療(表32)

 間質性肺疾患に合併する肺高血圧で低酸素血症が存在する例は酸素療法を考慮する.ただCOPDと異なり予後改善効果は明らかではない.浮腫,心不全に対しては適宜,利尿薬,ジギタリス製剤,抗凝固薬の使用を考慮する. 血管拡張療法の効果は証明されていないが291),292),少数例の検討でIPFに合併した肺高血圧に,シルデナフィルおよび吸入プロスタサイクリン(iloprost)が有効であったとの報告がある115),293).エポプロステノールは肺血管抵抗を下げるが,同時に低酸素
血症も悪化させ, また長期効果も確認されていない293),294).近年,アンブリセンタンはIPFで病態悪化リスクの増加の可能性が報告され,肺線維化を伴うPAH
に対しては慎重に適応を考慮することとなった295)

 高炭酸ガス血症を伴う呼吸不全に陥った場合には換気補助療法を考慮する.種々の間質性肺疾患にステロイド療法,免疫抑制療法が試みられる.病変の消退,低酸素血症の改善が得られれば肺高血圧の改善も期待できるが,一般的な治療として確立するに至っていない.内科的治療に抵抗性で,かつ重度・進行性の経過をとる場合には肺移植を検討する.ただし全身性疾患の併存などにより適応となる症例は限られる.

⑤今後の展望,課題

 間質性肺疾患に伴う肺高血圧に明らかな効果を発揮する単一の治療は現在のところない.ただし気腫合併肺線維症など特定の病型で治療効果がみられる可能性があり,今後肺動脈圧上昇の病態の解明,前向き試験による治療法の検証などが必要である.
表32 間質性肺疾患に伴う肺高血圧症の治療
Ⅱ 各論 > 3 肺疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症 > 2 間質性肺疾患
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