肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
 
NO 20ppm より開始
酸素化の改善(+)
4時間以降
PaO2>60mmHg or
SpO2>92%
NO 5ppm に減量
PaO2>70mmHg NO 5ppm を維持
FiO2 0.4 ~ 0.6 まで減量
臨床的に安定NO 徐々に減量
終了前にはFiO2 を0.1
増量してもよい
酸素化の改善(-)
NO 開始後PaO2 上昇
20mmHg 以下
・肺胞リクルートメント
・ECMO 導入を考慮
NO 20ppm 以上には上げない
Class Ⅰ
 1.NO吸入療法 (Level A)
Class Ⅱa
 1.人工換気,過換気療法,高頻度振動
   換気 (Level A)
Class Ⅱb
 1.エポプロステノール (Level B)
 2.シルデナフィル (Level B)
 3.膜型人工肺 (Level B)
 4.鎮静剤(ミダゾラムなど),筋弛緩薬
   (臭化ベクロニウムなど),麻薬静注
   (フェンタニールなど) (Level C)
 5 カテコラミン持続静注,volume expansion
(Level C)
6 新生児遷延性肺高血圧症
要旨
 新生児期の肺高血圧症で最も頻度が多い疾患として,新生児遷延性肺高血圧症(persistant pulumonary hypertention of the newborn: PPHN)がある.PPHNは新生児期に限定された急性疾患であり,多くは原因となる疾患が存在する.近年PPHNに対し一酸化窒素(NO)吸入療法の有効性が認められ保険適応となった.

①疫学・成因・病態

 PPHNの発生頻度は1~ 2/1,000出生といわれ,早産児より正期産児,過期産児に多い193).原因疾患として明らかな肺病変を認めない一次性PPHNと二次性PPHNがあり,頻度は圧倒的に後者が多い.二次性PPHTNの原疾患としては,①肺実質病変(胎便吸引症侯群,呼吸窮迫症候群,先天性肺炎,気胸,dry lung syndrome),②肺血管の発達異常( 横隔膜ヘルニア, 肺低形成,alveolar capillary dysplasia),③出生時の適応障害や組織還流異常,④子宮内での動脈管早期収縮(非ステロイド抗炎症薬:NSAIDs などによる)がある194)

 PPHNの基本病態は肺小動脈の中膜肥厚である.遷延性の肺血管抵抗の上昇は右室圧の後負荷と酸素需要を増加させ,心筋に対する虚血性障害と乳頭筋壊死,三尖弁逆流を引き起こす.心室中隔は左心室に偏位し,心拍出量も低下する.

② PPHN に特異的な診断手順

 呼吸障害やチアノーゼなど極めて重篤な臨床症状を示し,先天性チアノーゼ性心疾患との鑑別が必要である.高濃度酸素負荷テストを実施するとPaO2 レベルが
100mmHgを超えるとPPHNの可能性が高い.確定診断は心エコーによりチアノーゼ性心疾患を除外した上で,動脈管や卵円孔レベルでの右左短絡を証明することである(ClassⅠ)194).多くは人工呼吸管理中であるため,右心カテーテル検査などの侵襲的検査はむしろ有害である.

③重症度評価

 酸素化の指標として酸素指数(oxygenation index:OI)や肺胞─動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)がある.OI が広く用いられている.

 OI ={MAP×FiO2/PaO2}× 100. 
 MAP=(PIP-PEEP)×Ti(/ Ti+Te)+PEEP
 MAP: 平均気道内圧, PIP :最大吸気圧,PEEP:終末呼気圧,Ti:吸期時間, Te:呼気時間

④治療(表24)

 肺血管抵抗を下げ,かつ体血圧を正常に保つことにつきる.原疾患そのものの治療とアシドーシスなど破綻した代謝的異常の補正が不可欠である.

1)人工呼吸療法
 通常の人工換気の他,過換気療法,特に高頻度振動換気が効果的である193).人工呼吸の際にわずかな誘因で肺血管が攣縮することから,ミダゾラムなどの鎮静剤や臭化ベクロニウムなどの筋弛緩薬,フェンタニールなどの麻薬静注も考慮する.

2)体血圧の管理
 相対的に体動脈圧を上げる目的でカテコラミンの持続静注も有効である.volume expansion(輸血など)も低血圧時に有効である195)

3)NO 吸入療法
 NOの登場はPPHNの治療を飛躍的に向上させた.投与経路が吸入療法であるため,選択的に肺血管拡張作用をもたらし,PPNHに対する特効治療として最も期待できる.2010年より新生児PPHNに対して保険適応となった.NOは人工呼吸器回路に接続し,吸入NO濃度とNO2濃度をモニターしながら20ppmで開始し,5ppm程
度の有効最低量で維持する.採血によるメトヘモグロビン血症のチェックと環境汚染としてのNO2のモニタリングが必要である.図9にNO吸入療法の使用法を示した.

4)その他の血管拡張薬
①エポプロステノール
 PPHNについてエポプロステノールの大量療法(30~120ng/kg/min)の有効性を述べた報告がある196)

②シルデナフィル
 PPHNに対するシルデナフィルはプラセボに比べ救命率が格段に上昇したとの報告がある197)-199)

③膜型人工肺
  (extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)

 前記の治療が無効で低酸素血症が持続する場合に適応となる.OI が35または40以上200), またA-aDO2が600mmHg以上が4 時間以上持続するような重症例は
ECMOを考慮する183)

⑤予後

 原疾患にもよるが,治療が奏功すると治癒可能な疾患でもある.ECMOを必要とするような肺炎,MASの合併したPPNHや特発性のPPHNの生存率は76~93%で
あるが,ECMOを必要とする横隔膜ヘルニアによるPPHNは生存率が低く60%程度である201)
表24 新生児遷延性肺高血圧症に対する治療
図9 NO吸入療法のプロトコール
(アイノフロー®の添付文書より)
Ⅱ 各論 > 1 肺動脈性肺高血圧症(PAH) > 6 新生児遷延性肺高血圧症
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