肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
 
5 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD) および/ または肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH)
要旨
 Pulmonary veno-occlusive disease (PVOD)とpulmonary capillary hemangiomatosis( PCH)は,肺静脈や毛細血管の異常に伴って肺高血圧症を呈する疾患である.特徴的な臨床所見とPAH治療薬による肺水腫の危険性,予後不良であることなどから,ダナポイント分類では1’ 群と定義された.確定診断は病理組織所見によるが,両者の鑑別は必須ではなくPVOD/PCH疑診例と判断することが重要である.

①疫学,成因

 PVOD/PCHはこれまでに約200例が報告されている.以前は非常に稀とされていたが,臨床的にIPAHと診断された剖検例の約10%に認められたとの報告もある.
発症に男女差はなく,PVODは人口100万人あたり0.1~ 0.2人程度,多くは50歳代までに発症し,PCHは診断時平均年齢28.8歳である.予後は極めて不良で症状発現から約2 年で右心不全や呼吸不全で死亡する.急速に悪化し数か月で死の転帰をとることも多い188),189)

 原因は不明だが,PVODではウイルス感染や喫煙,抗癌薬や骨髄移植との関連が指摘されている.PVOD例でのBMPR2遺伝子異常が報告されており190),PVOD/PCHいずれにも家族発症例があることから,何らかの遺伝子異常の関与も推測される.PVODの病理組織像では膠原線維に富んだ線維性組織による肺細静脈の狭窄と閉塞が広範に認められる.PCHでは多層性に増殖した毛細血管が正常構造部分を破壊し浸潤する.

②診断

 初発症状は労作時息切れ,呼吸困難が多い.PAHに比較して安静時の酸素飽和度の低下や軽労作時の著明な低下が目立ち,拡散能が低値であることは診断に有用である.胸部単純X線では間質影の増強,Kerley B line がみられる.HRCTでの胸膜直下の小葉間隔壁肥厚,小葉中心性のground glass-opacity,縦隔リンパ節腫大の3徴候が診断に有用である191).肺換気─血流シンチグラムでは,亜区域性の血流欠損を認める.

③治療


 PVOD/PCHともに確立された内科的治療法はなく,根本的な治療法は肺移植のみである21). PAH治療薬のPVOD/PCHに対する有効性は確立していない.エポプロステノールなどの血管拡張薬は肺水腫の危険性から禁忌と考えられてきたが,低用量エポプロステノールの慎重投与が移植へのブリッジ治療として有用である可能性がある192).疑診例では早期に治療経験の豊富な施設との連携を図り,希望があれば肺移植登録を行う.
Ⅱ 各論 > 1 肺動脈性肺高血圧症(PAH) > 5肺静脈閉塞性疾患および/または肺毛細血管腫症
次へ