肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
 
1 肺高血圧の定義
 2008年のダナポイント会議では,安静時に右心カテーテル検査を用いて実測した肺動脈平均圧(mean PAP)が25mmHg以上の場合が肺高血圧と定義された3),5).以前の肺高圧の定義では運動時の mean PAP が30mmHg以上も肺高血圧に含まれていたが,ダナポイント会議の定義では本基準は採用されていない.さらに肺高血圧症例中で特に肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedged pressure: PCWP)が15mmHg以下の場合を肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)と定義した.安静時,健常人の mean PAP は14±3mmHg,正常上限は20mmHgと報告されており6), mean PAP が20~ 25mmHgの例の臨床的意義は今後の検討課題とされている.近年心エコー法の発達により,右室と左室の形態や心ドプラ法より,肺動脈圧や心拍出量の推定が可能となった.本法は容易,かつ非侵襲的に肺高血圧の存在を推定することが可能なため,本症に関して極めて有用な診断手段といえる.しかし少なくとも初診時や治療法の変更時には,正確な病態評価を行うため,右心カテーテル検査を用いた肺血行動態の直接測定が必要であるとの考え方がダナポイント会議では提唱され,現在の世界標準となっている.
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