肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
骨髄由来の血管内皮前駆細胞 endothelial progenitor cells(EPC)は,一部末梢血中にも存在し血管形成に関与している.通常は血管障害が生じるとVEGFなどの刺激により骨髄から血中に動員され,障害血管部位に取り込まれ内皮細胞に分化する. EPC誘導が,右室圧上昇を抑制し,内皮細胞障害の修復に役立ち,血管再生angiogenesisを誘導し,PAHの進行を抑えることが報告されている69).
虚血性心疾患,心筋梗塞,動脈硬化,糖尿病などでも,末梢血中に存在するEPC(CD34+/CD133+/KDR+ cells)が減少していることが報告されている.また,生理的運動,statin, ARB(olmesartan, irbesartan,valsartan),estrogen, PDE5-I 阻害薬(sildenafil,vardenafil),PPAR- γ 賦活薬(rosiglitazone),erythropoietin(Epo)などでEPCの細胞数が増加したり,遊走能や増殖能が改善したとの報告がある.すなわち,血管修復の欠落が肺動脈壁の肥厚を促進するという可能性がある70).IPAH とEisenmenger症候群ではEPC数が低下しており,そしてEPC数の低下の度合いと心不全指標は相関するとの結果もある71).一方,Epoは骨髄由来EPCを誘導する重要な役割を担っている.低酸素性肺高血圧のマウスモデル(Epo受容体欠損マウス(Epo-R-/-Rescued mice)を3週間低酸素下に曝露すると肺高血圧になりやすいことが知られているが,このマウスではEPCの遊走・集積が低下していることが判明している72).つまりEpo/Epo-R系は, 細胞の生存を促進する細胞内経路(PIPK/Akt,MAPK, STAT-5)を活性化し,多くの血管障害,循環障害,梗塞巣縮小,血管新生,アポトーシス抑制作用があり,貧血改善や造血細胞としての作用以外の血管壁細胞や,心筋細胞自体への有益な作用が注目を浴びている.
5 血管内皮前駆細胞