肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)
Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2012)
 
 PAHの重症例にみられる叢状病変(plexiform lesion)ではアポトーシス抵抗性を示す内皮細胞の活発な増殖像が確認されている.血管壁細胞の異常増殖の背景には,transforming growth factor(TGF)-β受容体のsuperfamilyの一つであるbone morphogenetic protein receptor type IIの遺伝子(BMPR2)や,activin like kinase(ALK)1をコードするACVRL1遺伝子,endoglinをコードするENG遺伝子,さらに細胞内シグナルであるSMAD 遺伝子などの細胞増殖調節経路の異常に加え,修飾遺伝子であるセロトニンの輸送蛋白質( 5-HTT)のプロモーター領域の遺伝子多型,ACEやeNOSの遺伝子多型の異常などが報告されている.

 PAHではこのBMPR2を構成する13個のexon全部にdeletion/ insertion nonsense,missense など多くの遺伝子変異が報告されてきた.BMPRは通常はⅠ型レセプターとⅡ型レセプターが2つずつ結合して4量体を形成し,この4量体のレセプターはBMPなどのリガンドが結合することによりリン酸化され,これが細胞内のSmad経路をリン酸化し,核内の転写調節因子に働きかけて,細胞増殖やアポトーシスの調節を行う.

 これまでに,家族性の70%,特発性の11~40%でBMPR2遺伝子変異の報告がある.遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)を伴うPAHでも遺伝子変異が報告されている.EndoglinやALK1 の遺伝子変異はHHTの症状や家族歴を伴わない患者でも報告がある.それを裏づける報告として,内皮細胞内でBMPR2を遺伝子的にアブレーションするとPAHになりやすいことも判明している60). このような事実からは,PAHはBMPR2やALK1 をコードする遺伝子のmutationにより細胞がモノクローナルに増殖されたり,アポトーシス抵抗性を伴う血管増殖性疾患であると推察することができる61).

 家族歴のあるPAHではACVRL1かBMPR2のどちらかの変異が検出されることが多い. またBMPR2やACVRL1に異常を認めない症例ではSMAD9の変異も検出されている62).最近はcaveolin-1(CAV1)の遺伝子病変や63),Notch3のシグナルによりPAHが発症するという報告もある64)
3 遺伝子異常
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