日本循環器病学会では日本呼吸器学会や日本リウマチ学会,日本胸部外科学会など関連学会の協力を得て,1999年から2000年にかけて肺高血圧症治療ガイドラインの初版を,また2006年にはその部分改訂を行い,肺高血圧症の診療向上に寄与してきた.しかし前回改訂より6年が経過し肺高血圧症の診療状況が一変したことから,今回改めてガイドラインの改訂が企画されることとなった.通常,特定の疾患に関する診断・治療のガイドラインは作成時点における最良の臨床的エビデンスに基づいて作成されることが望ましい.しかし,肺高血圧症は希少疾患であり,日本単独では十分な規模の症例登録や臨床試験の実施は困難な場合が多く,我が国独自のガイドラインの作成に資するエビデンスは皆無に近い.一方,最近欧米では5 年ごとに肺高血圧症に関する大規模なシンポジウムが開催され,その時々での大規模症例登録や種々の多施設共同ランダム化比較試験の結果を集約したエビデンスを基礎に診断・治療ガイドラインが作成されるようになった.現時点で最新の肺高血圧症に関するガイドラインとしては,2008年に米国・ダナポイントで開催された第4回肺高血圧症ワールド・シンポジウム(ダナポイント会議)での議事録を集約した米国心臓病学会誌のガイドライン1),2)や欧州の心臓病学会(European Society of Cardiology: ESC)/呼吸器病学会(European Respiratory Society: ERS)作成の肺高血圧症診断・治療ガイドラインが存在する3),4).そこで本肺高血圧症治療ガイドライン2012年度版は,基本的にはこれら最新の欧米ガイドラインに準拠しつつ,我が国に固有の事情も加味して作成する方針とした.なお,2013年2 月には第5回肺高血圧症ワールド・シンポジウム(ニース会議)が開催されたので,その発表内容の一部や,また現時点ではエビデンスとしては確立していないが,専門家間では有効/またはその可能性が高いと認識されている治療薬や方法についても,注釈を加えた上で記載した.このため本ガイドラインの内容はすべてがランダム化比較試験やこれに準じる客観的なエビデンスを根拠として記載されている訳ではなく,「治療の参考」とするべき程度の内容も多く含まれている.したがってその限界については理解し,本「ガイドライン」を利用していただきたい.
治療法の文献エビデンスレベルや推奨グレードについては,近年では「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007」に準拠して作成される傾向にある.ただ,本ガ イドラインでは従来の日本循環器病学会作成のガイドラインと統一性を保つ形式とし,AHA(American Heart Association)/ACC(American College of Cardiology) ガイドライン,ESC/ERSのガイドラインに準拠した表1の「証拠のレベル」と,表2の「勧告の程度」の様式を採用した.「証拠のレベル」,「勧告の程度」は,これまでの国内および国外の既出の論文に基づいて執筆担当者が判断し,最終的には,班員および外部評価委員の了承を得て決定した.